「世界観」クリープハイプ
つい、先週も同じ時間に帰ってたはずなのに、
随分と日が短くなって、今日はこんなに薄暗い。
残暑。暑さが残ると書くけれど、今日の昼間のそれは残っているどころか、まだまだここにいたはずなのに、いつのまにか山の頭の向こうへ、紫色して溶けてった。
家に帰るまでの抜け道は、少し登り坂で、なにより薄暗い神社の前を通らなくてはならないから、できるだけ通りたくない。
それでも今日みたいな日は仕方がない。門限を破ることは、お小遣いアップの査定にかなり響くだろう。
こういう点においては、今年小学校を卒業する僕と、今年タバコを卒業する予定のお父さんとなにも変わらないな、と少し大人ぶった僕の足をふと、薄暗い鳥居が止めた。
改めて覗き込むと、怖い。
神様が住んでいるから神社なんじゃないのか。
あれ、そもそも神様ってどんな姿なんだろう。
もしこの時間に鳥居をくぐって神様を見つけた冒険話は、明日のクラスメイトの中で持ちきりになるだろうか。
クラスでヒーローになる>門限を守る
この式が頭に浮かぶ頃には鳥居の中へと足が進んでいた。
湿気に包まれた木々の奥にぼやっと境内が浮かぶ。
1歩、また1歩、
境内が手の届くところまで近付いたときには、
覆い茂った木々が、星空の形に丸く開けていて、
まるで大きな望遠鏡で星空を覗き込んでいるような気持ちがした。
きっと、僕はこの瞬間に神様を独り占めしてしまった。
家に着いて案の定お母さんに叱られながらご飯を食べて、
嫌いな野菜を残してお父さんに怒られた。
お小遣いアップが遠のいたけど、なんだか今日はそれすらも関係ない気がした。
今日の景色を明日みんなに話そう。
お風呂に浸かって、布団の中で目をつむりこう心に決めて、明日を迎えにいこうとした。
遠のく意識の中にいる僕は、
狛犬の左右が入れ替わっていたことや、
雨なんて降っていなかったのに、木々や境内が濡れていたこと、
たくさんの不思議に気付くことはなかった。